Huang, H., et Chen, C.-C.
Stag Beetles of China III
Taiwan,
2017, 10
黄灝,陳常卿 著
『中華鍬甲,参』
福爾摩沙生態有限公司, 台湾
2017年
紹介し忘れていたので、ここにあらためて。
シリーズ3巻目となる本書は、外観は白くなり、なぜか、ハードカバー!重い本が、さらに重く・・・w
統一感・・・!
lucanus はIIと同じく冒頭に、Chapter 1として【追加考察】が収録されており、分量としては27ページまで。
今回、標本プレートは巻末ではなく、文中にレイアウトされており、見やすくなっています。写真写りもこれまでよりもいい感じですね。
参考までに、以下に目次を。
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〇 新種
Lucanus liupengyui Huang & Chen spec. nov. リウペンユウ
〇 中国での初記録
Lucanus cantori Hope, 1842 カンター
Lucanus lunifer franciscae Lacroix, 1971 ルニフェル亜種フランチェスカ
Lucanus sericeus Didier, 1925 セリケウス
Lucanus wemckeni Schenk, 2006 ヴェムケン
〇 分類学的変更
Lucanus derani derani Nagai, 2000 デラン原名亜種
Lucanus derani fukinukiae Katsura & Giang, 2002 stat. nov. デラン亜種フキヌキ
Lucanus derani ssp. incert.
Lucanus swinhoer continentalis Zilioli, 1998 stat. nov. 台湾ヒメ亜種コンチネンタリス
〇 Notes
10~21 種/亜種
ブリヴィオ
キルヒナー
ウーイー
デラヴァイ
ルディヴィナ
チベタヌス亜種シングラリス
チベタヌス亜種イザーク
チェン
ハヤシ
ニーシュイン亜種ブレットシュナイダー
アトラトゥス
〇 Genus Eolucanus
Eolucanus oberthuri オーベルチュール
Eolucanus adi (Okuda & Maeda, 2016) comb. nov. アディ
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ここで書かれた新種リウペンユウについては、だいぶ前に書いていましたね。
その後、ビークワミヤマ特集へと続き、あらためて書くことをしていませんでしたが、スミスやブリュアンに似た種で、最近記載されたシューリンにも似ているといえば似ています。
顎先がぐりんと丸く内に巻き込むカタチがユニーク。
地味で短足でなかなかかわいい種なので、もう少し普及してもいいなと思う種です!
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初記録として、カンター、フランチェスカ、セリケウス、ヴェムケン、というラインナップが図示されています。
まさに、アルナーチャルの顔ぶれ。
ヴェムケンなどは、なかなか強面な個体が多い場所。
カンターは、実際に85レベルの大きいのは見つかっているのか、いまのところ聞こえては来ていないけれども、どうなのだろう。
このなかで、セリケウスはかなり異質。
ベトナム原名っぽいのもいれば、タイ~ラオスっぽい顔つきのもいたり、はたまたナンサーとの中間なカタチを見せる個体も確認されており・・・
このあたりは、ラベルの信用性と実地的な調査が必要と感じます。
ただセリケウスってイマイチ人気がないんですよねえ。
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本書において、一番問題に感じるのは、分類学的変更、です。
永井氏に記載されたデランミヤマLucanus derani Nagai, 2000は、記載後に、ここでようやく光を当てられることになったわけですが。。。
雲南で得られた個体は、たしかにそれっぽいのだけれども、それと永井氏のと比較する手続きがなされ、サパヒメミヤマ(フキヌキ)Lucanus fukinukiae Katsura & Giang, 2002が、デランの「亜種」とされてしまうという、手続きがなされてしまったのです・・・。
さらに、中国におけるサパヒメミヤマとおぼしき小型個体を、暫定的にssp. incert. 「亜種」扱いとするという・・・。
そもそも、デランって種自体がよく分かっていません。
ぱっと見、サパヒメ(フキヌキ)の小型っぽくも見えるのだけど、どうでしょうか。だとすると、ベトナムのサパヒメは、それより前に記載されているデランのシノニムの可能性も出てきます。
さらには、ssp. incertで提示されている個体は、そもそもサパヒメの雲南側の個体かもしれない、という見立てもできるわけです。
その見立てでいくと、そもそもHuang & Chenが「デランだとして」比較する雲南の個体(小型ばかり)が、はたして正しい比較なのか、その段階がすでに問題点になるわけで。
つまり、デランと見なした雲南の個体はサパヒメ(フキヌキ)ではなく、チンヒルエンシスの系統の種群、と考えられるからです。
デランLucanus derani Nagai, 2000として比較された雲南の個体群と、チンヒルエンシスLucanus chinhillensis Schenk, 2016の関係は、じつは非常に微妙なライン。
ツカモトみたいに、タイからラオス、ベトナムと分布する例のように、チンヒルエンシスは、デランされた雲南の種群と同じかもしれないという可能性はゼロではないのです。
例えば、ディルクLucanus dirki Schenk, 2002とアウンサンLucanus aungsani Zilioli, 1999とかも、かなり微妙なラインですよね。
こんな感じで、ひとつの懸け違いが芋づる式に連鎖してしまう。
ここら辺は比較する資料(標本)の少なさから、難しいところなんです。
永井氏の記載は、概して資料の少なさから他の甲虫でも難しいんです。
場所はいわゆる、ミャンマー奥地⇔中国雲南エリアですし、ねえ。
山岳ゲリラ麻薬組織の無法地帯なエリアへは、たとえ正式な採集許可をもっていたって外国人が立ち入ったならば、身ぐるみ剥がされ生きて帰ってこれるなんて保証もないですし~
戦闘訓練をうけた護衛チームとともに、って、まあ難しいでしょう。
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あと、ここでヒメミヤマのコンチネンタリスが「亜種」とされました。
が、ことの顛末については以下参照ください。
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そして、エオルカヌス属 Genus Eolucanus について。
アディミヤマは、Lucanusとして記載されましたが、
それを、ここでエオルカヌス属に、正式に移動しています。
その考察で興味深い記述は、アディEolucanus adi (Okuda & Maeda, 2016) comb. nov.♂のゲニタリアは、ミンイLucanus mingyiae (Huang, 2006)の♂のそれとほぼ変わらない、というもの。
見た目もそうですが、ミンイとはけっこう近しい関係というのはまちがいなさそうです。
中国側から、こうした切り込んだ分析がなされていっていることは、実に喜ばしいことです。
国際的に研究者が知見をもちよって、多角的な視点から考察を重ねて、よりよい理解へつなげていきたいものですね!
いやしかし、【インド北東部:アルナーチャル】と【ミャンマー北部/雲南省南西部】の種は、ほんとうに難しいですよね。
ここに【ラオス北部/ベトナム北西部】も入ってくるわけだけど!