lhasaensis、dybowski、安徽省Anhuiに産する特徴的な個体群

歴史的な大寒波のなか、みなさまいかがお過ごしでしょうか!?

やることが山盛りのなかでせっかく読んでるのだから、もったいないのでアウトプットしておきます。ガンガン行こうぜ!

さて、今日はラサミヤマ L. dybowski lhasaensis Schenk, 2006(以下ラサエンシス)と、そのまわりについて。

 

このミヤマについて取り上げている最新の資料は、私が担当したビークワの「ミヤマ特集」BE-KUWA, no. 75(2020)。

ですが、参照した資料としてもっとも重要なのは、Huang&Chen『中華鍬甲』II(2013)です。

その12-13ページで、No. XX(20)にラサエンシスが登場します。

ここで、産地は四川省雅安Sichuan, Ya-an, Yingjingで、ボワローミヤマL. boileauiと同所的に得られており、同じ山塊(Omeishan)でも1300~1900mと幾分標高の差はあるようですが、両種は混生している事実が記されています。 

メスのゲニタリアの形態が図示され、チョウセンミヤマL. dybowski のメスのそれとほぼ違いがないと確認、「亜種」であることの根拠として提示されています。

 

このラサエンシスをチョウセンミヤマの「亜種」として扱う分類学上の変更は、『中華鍬甲』(2010)の115-117ページが初出でした。

Lucanus dybowski lhasaensis Schenk stat. nov.
 Lucanus lhasaensis Schenk, 2006

ラサエンシスは、日本のミヤマL. maculifemoratusを軸とした“ミヤマグループ”に含められ、台湾のタカサゴミヤマとともにチョウセンミヤマを原名とする「亜種」に位置づけられたのです。


引用:Huang&Chen『中華鍬甲』(2010)p. 255

 

では、そもそもチョウセンミヤマとはどんなやつなんでしょう。

チョウセンミヤマLucanus dybowski Parry, 1873は、ロシア極東(アムール)より得られた個体をもとに記載されました。

『中華鍬甲』(2010)の113-115ページにおいて、原記載地の極東ロシア(Amur, Vladivostok, Askold insula, Ussuri)、や、韓国・北朝鮮、そして中国北東部(遼寧省、北京市、天津市)に産する個体群は、原記載の記述にふさわしいかたちを示してるとする一方、

それより南に位置する甘粛省、陝西省、重慶市、湖北省、(山西省)、河南省、安徽省、より記録された個体群は、幾分特徴が異なってくる傾向があるが地域変異の範疇だと結論づけています。

「チョウセン」というだけあって、いわゆる極東の個体群はかなり特徴的ですよね。

韓国など朝鮮半島の個体群は、大顎の発達が日本のミヤマとかなり違うので、数を見ていてとても愉しい。

日本のミヤマと異なる最大の特徴は、額の衝立があるかないか、です!

より詳細な形態分析は、同書の118-123ページ

Table 5.  Delimitation of species in the maculifemoratus group
Table 6. Values of dissimilarities in genitalia between taxa of the maculifemoratus group
それに続く解説

でなされているので、深く知りたい方はそちらを参照願います!

 

分布域からみていくと、四川省に「チョウセンミヤマ」は生息しないということになっているんです。(チョウセンミヤマの四川省ラベルを、自分は持っていたと記憶しますが~~~)

つまり、チョウセンミヤマの「代置」というか、そのようなポジションにラサエンシスという基本的に近似だけれど特徴的な形態の個体群がおり、別種ボワローと同所的に四川省内に分布している、という見立ても可能でしょう。

近似の別種(この場合ボワロー)が同所的にいることは、【チョウセンミヤマ⇒ラサエンシス】方向へ影響したのかは定かではありませんが~

先のヒメミヤマ論文のような遺伝子分析でこうした問題へアプローチすることは、きっと有意義でしょうね!

 

このような分類に対し、藤田(2010)ではラサエンシスは原記載どおり、独立した「種」として扱かわれています。そこに根拠はありません。

一方、ラサエンシスを記載したSchenk自身は、『中華鍬甲』(2010)後に発行したBeetles world No.6(2012)の12ページにおいて、「ラサエンシスを別種とすることは、外部形態や生殖器の特徴が大きく異なることから正当化される。the status of L. lhasaensis as a separate species is justified by the significant differences in external features and genitalia characters.」(傍線部筆者)と、藤田(2010)と同様に、独立種であることを重ねて主張しています。

具体的にどこがどう違うのかは言及されないままに・・・

 

以下に、3個体のラサエンシスを見ていきましょう。

● 根元の第一歯が短く、かつ横(内側)方向ではなく上方向に突出する点、

● 顎の全体の3分の2ほどの位置で強く湾曲する点、

が主たる特徴と言えます。

ここ最近になって現地キャッチャーによる四川省での開拓がすすみ、SNS上でその姿を拝む機会が増えてきました。

日本のミヤマのように個体変異も大きく、かなり味のあるカッコいい種だな~というのが個人的感想。

しかしながら、いかんせん流通個体の状態はというと、かんばしくないのが実情。

それに加えて、アルコールによる〆め方のためか、乾燥すると著しく腹が縮む傾向を見せるため、ほぼすべての標本がいわゆる「翅パカ」状態になってしまうのでかなり悩ましいですね。

 

いやしかし、「亜種」ってなんなんでしょうねw

アクベシアヌスとか、ユダイクスを見ると、訳が分からなくなります。あれらはケルウスの亜種だけど~

みなさまは、ラサエンシスを「亜種」か、「種」か、どのように思われますか?

 

 

次の話題です。

『中華鍬甲』II (2013)にもどりましょう。

ラサエンシスの記述の後半に、比較標本として、チョウセンミヤマの複数個体、すなわち、湖北省Hubei、重慶市Chongquin、そして安徽省Anhuiからもたらされた標本が掲載されています。

ミヤマを見ている人からすると、ここで示された安徽省(Yuexi, Yaoluoping Nature Reserve)の個体(12ページ右下)は、どうも気になる存在。

なぜならそれは、ラサエンシスでもなく、ふつうのチョウセンミヤマよりもだいぶかけ離れているように見えるからです。


引用:Huang&Chen『中華鍬甲』 II(2013)p. 12 

 

実は、『中華鍬甲』(2010)の時点ですでに、検した標本として、安徽省の9♂♂8♀♀がリストアップされていました(113ページ)。

そして、若干の思わせぶりな記述(「安徽省の中型の個体は、他産地に比べ、基部の歯がより短い。 the basal tooth of the mandible shorter than in other populations. 」114ページ)があったのですが、写真などの図示などはなく、文字のみでスルーされていたんです。

II巻においてHuang&Chenはこの安徽省の個体群に、あらためて触れたといえるんですね。

 

そして、15ページの解説の最後の段落で、チョウセンミヤマのみならずラサエンシスとも比較します。

「ラサエンシスのもつ大顎基部の発達の悪い内歯の点でラサエンシスによく似ているが、チョウセンミヤマのように雌雄ともに黄褐色の腿節をもつ」と書いています。ラサエンシスは赤褐色とのこと

 

いやいやいやいや・・・

この色味の特徴については、読者にとってはよく分からないところ。

だって~写真、モノクロじゃん!

 

むしろ、標本自体に↙で指示書きされた特徴のほうが的確ですよね。

・大顎の基部大歯が「短い(short)

・頭冠部が「横に広がらない(not expanded laterally)


引用:Huang&Chen『中華鍬甲』 II(2013)p. 12 部分

 

唯一、現在までに入手したこの個体は、書かれたその特徴を良く示しています。

ただ標本としての状態が良くなく、かなり黒化してしまっている印象。

脚は黄褐色を示しているとはいえ、この個体のみではどうにも評価できないな~というところ。

 

基本的に、「体色」というのは標本を評価する要素としては難しい問題です。

トンボやセミ等に比べて甲虫は死後の体色の変化というモノは少ない部類ですが・・・ご存じのように、どのように死んだか、がかなり重要ですし。

どのような薬品で〆られたか、乾燥の程度、保存状態など様々な要因が体色に影響を与える事実は、考慮しないといけない。

まして、」褐色⇔「」褐色というのは、なかなか悩ましい…生体の状態で比較し、標本の状態との変化の幅が把握できるならば、ベストなのだけれども。

 

いずれにしても、このように第3の変異?個体群の存在が、示唆されているわけです。

Huang&Chenお得意の、暫定的に亜種(ssp. incert)、といった処置はなされてはいないのですけれども。

 

以上、

日本のミヤマを含むmaculifemoratusグループについて、チョウセンミヤマL. dybowski について概観してゆくとき、

● 顕著な特徴をもつラサエンシスlhasaensisという別種/別亜種がいて

● チョウセンミヤマともラサエンシスともまたちょっとちがう、特徴的な個体群が安徽省にいる

という話でした。

 

いやしかし、台湾のタカサゴミヤマにそっくりだよね~!

Author: jinlabo

4 thoughts on “lhasaensis、dybowski、安徽省Anhuiに産する特徴的な個体群

  1. こんにちは。インスタでお会いした Lucadyboと申します。 良い文章ありがとうございます。‍♂️ 本文で疑問を示したように、私も泗川省出身のLucanus dybowski dybowskiをいくつか持っていますが、さらに一つはAmeishan出身です。 図鑑に記録が抜けているのかラベルが間違っているのか気になりますね。

    1. インスタではいつもありがとうございます~
      そこそこ四川省産のdybowski標本は出回っているので、気になる問題ですね。
      ご指摘、ありがとうございます!

      1. こちらこそ以前から大変お世話になっております。 改めて感謝いたします。

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