Beetles World 12 ~チンヒルエンシスミヤマ Lucanus chinhillensis 新種記載

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Beetles World 12_2016. Jan


pp.1-9

“Description of new Lucanidae from Asia and remark about Neolucanus zebra(Coleoptera, Lucanidae)”
「アジアのクワガタムシ科の新種記載と ゼブラマルバネに関する考察」

K-D Schenk

 

Lucanus chinhillensis Schenk, 2016
チンヒルエンシス ミヤマクワガタ


本論文の前半(1-4ページ)は、Lucanus chinhillensis (チンヒルエンシス)に関する、新種記載となっています。

 

*****

さて、続きです(笑

 

先に書きましたように、Huangら(2010)によって、フェアメール sp. fairmairei という学名は、従来「シセンミヤマ」として知られていた種の本来の名として整理されました。

しかし、前田氏のBE KUWA・50号(2014冬)のインドのクワガタ特集(9ページ)においては、その整理結果は反映されませんでした。

つまり、ここで「フェアメールミヤマ」として図示されたのは、ミャンマー・チンヒル産の個体でした。

前田氏が図示したこの種群は、わが国内では以前より「フェアメール」と認識されてきましたのでね。

というわけで、(前田氏がその整理を反映しなかったとはいえ)2010年にHuangらが学名を整理して以降、いや、実はずっとそれ以前より、ミャンマーのチンヒル産の個体は、長い間既知の種だけど、事実上の「名無し」だったのです。

 

そして、時は流れて、2016年。

ドイツのシェンクは、2010年のHuangらのを学名整理を受けて、

もっと言えば「フェアメール」とされていたチンヒルの種群に実は「名が無い」事実に気づいて!、

手持ちの複数の標本を用いて記載に動き、2016年に晴れて記載した、ということになったのです。

 

…しかし残念ながら、

● [小型ペア]で記載。

● 第三者による査読無しの[著者=発行者]という体裁。

● ゲニタリア(交尾器)についての考察なし。

うーむ。
正直、問題ありです。

 

*****

 

まず記載についての所感。

●ホロタイプ標本について

本論によると、タイプシリーズに指定したのは「3♂4♀」とのこと。

これに関して、率直な感想として、「少なくない?」と言いたい。

なぜなら、わが国では本種の標本は、知られるところでは比較的数多くこれまでにもたらされていたからです。

 

しかも、種の判別を担う唯一無二の重要なホロタイプ標本を、小型個体にしました。

ミヤマ好きな皆様ならお分かりのことでしょう。

ミヤマにおいて、小型個体で外形的特徴の差異を判別することは、非常に困難です。

個体差も鑑みたら、なおさら怖くてそんなことできません。

でも、やっちゃうんですね~。せめて中型以上でホロタイプを選定してほしかった。

 

こう批判するのにはワケがあります。

ここを見てくださる同志の皆様ならわかってくださると思うのだけど、ここら辺の種類の記載には、なかなか困難な「壁」があるのです。

なんども書きますが、ミャンマーからラオス・ベトナムにかけてのヒメミヤマの細い系の既に知られている似ている種(フォルモサスとかキクロマトイデスとかツカモトとか・・・)については、総合的考察(ゲニタリア比較から各種のホロタイプ実見・分析まで)が、記載には最低限必要だとする認識です。

こういったのを精緻に整理しなければ、

論文をしかるべきところに投稿しても、

「査読」に通るわけがありません。冗談抜きで。

 

そんなこんなで怖気づいて、(リジェクトは精神的に非常にショック)

否!慎重に、ちんたらやってると~~~先を越されてしまうわけです。

でも、その体裁が、査読が必要ない状況の出版、つまり「著者=発行人」でパブリッシュ、ってのはどうなんでしょうか。

第三者を入れるなり、そういう配慮は必要だとおもうのだけどな~

【分類学】が非難されてしまうダメな面を、こういう「クワガタの分類」が代表して助長しているようで・・・なんとも悲しいです。

 

 

●ゲニタリア(交尾器)考察がなされてない点。

 

上記にも関連しますが、昨今の生物記載、とくに昆虫に関する科学論文において、「ゲニ考察」抜きの体裁は、「査読」の審査に通りません

これがなぜか通ってしまうのが~アカデミックな場からは「商用的」と敬遠され気味なクワガタムシならではの状況なのでしょうね。

・・・ムシだけに無視できない状況です。

 

とりわけ、ミヤマクワガタLucanus は、一種のなかでヴァリエーション、すなわち個体変異の幅が非常に大きい。

外形比較のみでは、客観的証拠としてはぜんぜん足りないのです。

 

こうした結果、のちに続く研究者は、先行研究でなされなかったこと、つまり、以下のことをやらなければならない状況に陥ります。

 

● 形体の変異が著しい種ならば、「小型(原歯型)~大型(大歯型)」を図示

● ゲニ(交尾器)の図示・比較

● 比較するための既知種の【ホロタイプ標本】の確認作業

 

 

現状、そうしたなされなかったことが、積み重なってきている状況といっていいでしょう。

 

これ、言うは簡単だけど、やるのは大変ですよ。

マジで!

 

*****

以上、「フェアメール名無し問題」でした。

 

上記のように、

ミャンマーのチンヒル産の「フェアメール」と言われていた種は、いまや「不明種」ではなく、

「チンヒルエンシス」という名前があります。

 

さて、それでも引き続き、問題は以下が残っています。

 

・ミャンマーの似てる奴は何?(まだいる!)
・シェンクが比較で用いたカンボジア個体って何?(ここでは言及しませんでしたが)

 

これもおいおい。

 

名前が出揃ったところを、日本勢が誇る良い標本を図示してまとめて行くのも、まあ良しとしましょうか~

 

では。

 

Special Thanks:

Author: jinlabo

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