【ビークワ補足】~Lucanus gamunus ミクラミヤマ

Lucanus gamunus Sawada et Watanabe, 1960 ミクラミヤマクワガタ

Sawada et Watanabe, 1960, Jour. Agr. Sci. Tokyo Nogyo Daigaku, 6 (2): 99-102, figs.

☛ Sawada, H. & Y. Watanabe, 1960. Description of a new species of Lucanid-beetles from Mikura Island in the Izu Islands, Japan., Jour. Agr. Sci. Tokyo Nogyo Daigaku. 6 (2): 99-102.

[Japan (Mikura Island in the Izu Islands)]

分布:御蔵島、神津島

特記:御蔵島では2002年御蔵島村自然保護条例、神津島では2007年神津島動植物の保護に関する条例により本種の採集は禁止されている。

環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧(NT)に選定されている。

種名は、御蔵島の方言「がむなgamu-na」=怒るなよ!Don’t be angry/Pardon me !の意(原記載より)に由来する。

 

体長:♂21.8–34.7mm ♀22.2–26.6mm

タイプ標本♂♀、東京農大昆虫学研究室蔵(100頁より引用) 

 

形態: 

♂鞘翅の色彩変異に富み、①黒褐色 ②頭部と胸部が赤褐色(赤褐色型)③上翅に黄褐色の紋が現れる(黄紋型)、のほか、②と③の組み合わせた変異など、連続的に出現する。

頭部耳状突起の発達は悪く不明瞭だが、大型のオスは頭部の頭冠が大きく張り出す。昨今ブリード技術の向上で、大型個体における頭部の顕著な変化が観察されている。

大顎は短く、強く湾曲し、先端は二叉する。小さな内歯が2-3本発現する。

野外では、神津島の個体のほうが大型個体がみられるが、その一方で色彩の変異は御蔵島よりも少ない。

 

♀メスでも色彩変異が出現することもあるが、稀。メスは光沢が強い。

 

生態: 

成虫は4月下旬から6月にかけて出現する。樹液や灯火には集まらず、昼行性で、飛ばずに臨床や地表(道路上)を徘徊する。生息環境は、スダジイの原生林や二次林や竹林等と考えられる。

御蔵島では個体数は多いが、神津島では、島の南部及び北部において、局所的に生息している。

 

 

種の記載とその近縁種について

ミクラミヤマクワガタは、御蔵島と神津島だけに生息するという特殊な生態も相まって、1960年の新種記載はとてもセンセーショナルなものであった。

記載当初は御蔵島のみでの発見であった。

 

記載以降、多くの関心をもって観察され、研究されてきた。

そのような数ある研究のなかでも、ミクラミヤマクワガタの近縁種として、中国のパリーミヤマクワガタとラエトゥスミヤマクワガタを関連づけ、分布について検討した黒澤論文(黒澤、1978)は特に有名だ。

 ☛ 黒澤良彦, 1978. 伊豆諸島特産種ミクラミヤマクワガタの系統と分布. 国立科学博物館専報11 : 141- 153.

 

そのなかで、中国本土に生息する2種とともに「ミクラミヤマクワガタ種群」を設定し、本種をそのなかで最も原始的な種として位置づけた。

そして、中国大陸から日本本土に進入し、古伊豆半島を伝わって孤島の一部で生き延びた、といった仮説を展開した。

「なぜミクラミヤマクワガタは日本本土で生き残らなかったのか?」「なぜミクラミヤマクワガタがなぜ伊豆諸島の2島だけにいるのか?」といった疑問点は、様々な議論を巻き起こしたが、現在までその疑問に決着はついていない。

 

近年では、DNA解析の結果から比較的新しい時代に伊豆諸島に漂着したのでは?とする新説(荒谷・細谷、2014)が出されている。

☛ 荒谷・細谷, 2014. 伊豆諸島の魅力を探る:クワガタムシ科を題材に.昆虫と自然49 (3): 10- 17.

 

ミクラミヤマクワガタの研究史については、藤田によって詳しく書かれているので、ぜひとも参照していただきたい。(藤田、2014)

☛ 藤田宏, 2014. ミクラミヤマクワガタの研究史:54年前に発見されたクワガタムシ. Mikurensis: みくらしまの科学, 3 : 35- 64.

 

 

近縁種

以下が黒澤によって近縁種とされた中国本土のミヤマクワガタである。実際、DNA調査によって近縁であることが判明している。

 

Lucanus parryi Boileau, 1899  パリーミヤマクワガタ

 基準産地:福建省武夷山 [Kuatun, Wuyi-shan, Fujian]

分布:中国(浙江省、江西省、福建省、安徽省)

 

Lucanus laetus Arrow, 1943  ラエトゥスミヤマクワガタ

 基準産地:四川省西部 [Sichuan]

 分布:中国(四川省、湖北省、重慶市、河南省、貴州省、陝西省)

 

これらは、ヒメミヤマクワガタのグループ The fortunei groupに分類されるが、

メスの顎の内歯が突起状で左右対称であるという形態的な違い(他のヒメミヤマのメスはヘラ状で左右非対称)から、他種と区別されて扱われる。

 

2010年、ラエトゥスミヤマはパリーミヤマと交尾器に違いは無いと分析され、パリーミヤマの亜種とされた(Huang・Chen, 2010)。

Lucanus parryi Boileau, 1899 
Lucanus laetus Arrow, 1943 

 

これに対して藤田は、「近縁であってもかなり異なった種で、カラー写真で図示されている各産地の両種の写真を見ても中間的な個体はまったくいない。」といい、「従来通りに別種として扱うべきである」と異議を唱えた。(藤田、2014)

 

ここでは、パリーとラエトゥスは別に記すが、交尾器に違いは無いとはいえ、大顎の発達や耳状突起(頭冠)の発達など外部形態に着目するならば明らかに大きく異なるわけだけど~

読者の皆様はどう考えるだろうか?

 

 

Lucanus chengyuani Wang et Ko, 2018  チェンユアンミヤマクワガタ

 基準産地:台湾 嘉義県阿里山 [Taiwan, Chiayi co., Alishan]

 

また、最近台湾から発見され2018年に記載されたチェンユアンミヤマ(メスは未見)がいる。

黒褐色で、歯型に顕著な特徴(4つほどの小歯が並び、顎先は弱く二叉する)があり、パリーミヤマ系統の形態をしている意味で顕著な発見だった。

 

 

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2025/01/21:保護条例のリンク追加。環境省レッドデータリンク追加。

 

Author: jinlabo

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