続-「フルキフェル」の名の行方

一度に書ききれなかった先の記事についての、いくつかの補足を。

やはり、アローの記述の検証は必要だと思うので、見返してみました。

 

フルキフェルの記載は、Arrow(1950)の46-48ページにあります。

形態記述においては、たしかに、チベタヌスのかたちを記述しているものです。

“フルキフェル”に特徴たる、鋭い顎先の「開き」には、なんら言及がありません。

 

47ページの中ほど、タイプシリーズのデータを記述してあるのだけど、そこにこのようにあるわけです。赤線加筆しました。

タイプ標本(雲南省からの)は大英博物館蔵。

この記述は、、、チェックメイト。

詰んでます。

決定的です。

 

続けて、標本が図示された巻末プレートのほうはどうでしょうか。

『中華鍬甲』で指摘があるように、いわゆる産地データは書かれていないのがわかります。

 

それと、もうひとつ興味深い記述が。

左ページの標本のリストですが、

我らが4番のフルキフェルについては、 sp. n., ♂. と書かれるのみ。

 

しかし、注目すべきは、その下のラミニフェルです。

末尾に (Type.) の文字が!!!

 

わざわざ、「このラミニフェルはタイプだよ」と記す意味、

つまりこれは、ひるがえって「このフルキフェルはタイプではない、新種として図示するけど」、と読めるわけです。

 

おそらく、図示された4番の個体は、

47ページに記述してあったタイプシリーズの中のひとつ、

オーベルチュールOberthür氏のコレクションの中にあった、シッキムSikkimのLachen Lachung産の個体と推測されます。

その可能性は高いでしょう。

 

以上のことから、アローのフルキフェル新種記載(Arrow, 1950)は、以下のようにまとめることができます。

・ 大英博物館蔵の「雲南」の個体をタイプとして、新種記載。ディスクリプション(形態記述)も、その雲南の個体にもとづいている。
・ しかし標本プレートについては、何か理由があったのか、タイプシリーズ中のオーベルチュール・コレクションの個体(パラタイプ)を用いた。

 

この齟齬を、1978年にバッカスが整理したのですね。

タイプシリーズに現存していた唯一の「雲南」の個体を、タイプとして再指定したわけです。

 

 

しかし、ミヤマ好きなら思う、素朴な疑問。

プレートの4番と雲南のとを混ぜたアロー氏、ちゃんと実物見たんでしょうかね。。。

並べたら、かなりちがうと思うんだけどなあ。わかると思うんだけどなあ。

実物は見ないで、話半分オーベルチュールに無理やり入れ込まれたとか?私たちが知るよしも無い、当時のなんらかの事情があったりするのかもしれませんね。

 

 

さて、こうした新種を記載するにあたってのルール、ひいては過去の分類研究におけるタイプ標本についての扱いには、国際的にルールが設けられていることをあらためて意識しておきましょう。

生きものに名前をつけるということは、しかるべきルールに則らなければいけないのです。

参考までに、国際動物命名規約の日本語版(第4版)を添付しておきますね。

 

ではでは。

Author: jinlabo

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