亜種への格下げ ~サパヒメミヤマをめぐる処置について思うこと

レファレンスへ、永井氏のミャンマーの野瀬コレクションの記載文を発掘して、UPしてみました。

というのは、

Huang氏の新巻『中華鍬甲・参』にて、葛さんのサパヒメミヤマL. fukinukiaeが、永井氏2000年記載のL. derani 、すなわちデランミヤマの亜種に格下げの処置をされていた

、のを見てしまったためです。

新巻10-11ページの記述の概要は以下のようなもの。

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・デランミヤマの基産地に近いところで採れた個体が、雲南の片馬Pianmaの人物からもたらされた。
・その中の1個体は、デランとして永井氏の論文に図示されたホロタイプ個体に、「外形要素のあらゆる面で all detail of the external features」合致する。
・交尾器を精査したところ、ミャンマーのデランミヤマは、葛さん記載のベトナムのサパヒメミヤマと、「同種である is conspecific with」ことがわかった。
・よって、雲南のGaoligongshanの個体群(中華鍬甲壱, 2010, p. 253, Plate 37, 1-4の「Pingbian」ラベルのこと??)は、デランの亜種ssp. である。

⇒その「雲南Pingbian」の個体群を、デランミヤマの新亜種ssp. fukinukiae と整理 stat.nov.した。

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yunnan, pianma

つまり、葛さんのベトナムのサパヒメミヤマは、中国の雲南の個体群とひとくくりにされ、デラン亜種へと整理されたわけです。

みなさん、どうでしょう。

確かに、『中華鍬甲・壱』 89-93ページにおいて、著者らは「サパヒメミヤマはデランのシノニムかもしれない」とほのめかしており、のちに何らかの整理をする気があったことがうかがえる記述となってはいました。

それが、結果としてシノニム、すなわち同名と位置づけておなじ種類として整理しなかったとはいえ、「亜種」へと組み込んだわけであります。

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まず、ひとつ、

基本的に、著者らは、「雲南」個体と「ベトナム」個体を同じという前提に立っている、というスタンスがある、ということ。

おそらく、ゲニ、すなわち交尾器の比較・検討は、「雲南」個体を用いてなされたと予想されます。

ぼくは、この前提を怖いなと思いますね。

つまり、サパヒメミヤマの基産地はベトナムなのだから、まずベトナム個体のホロタイプやパラタイプを実見し、その交尾器を精査するのが筋!ではないかと。


図示したこれらは、手元にある中国「雲南, Pingbian」の個体群。
まあ、同じというならば、そのようにこの子達を捉えましょうか。

 

ふたつめ、

デランミヤマを考えるとき、今回ミャンマーで採れたとされる個体がデランである確証は、「基産地に近い採集データ&記載写真の見比べ」、でしかない。

「基産地の近辺から来た!デランじゃね??」
表現が軽いですが、平たく言えばそういうことで、そういうのはあまりにも短慮というか。
これも怖いな~と思います。

なぜなら、デランという種は、野瀬氏のコレクション以降、(私の知る限りでは)まったく入ってきていない種なので、ね。

仮に、デランミヤマを語るならば、今回図示されたような小型の♂を対象とするのは不十分かと。

ミヤマの常ですが、小型の比較は非常に困難です。

大型個体まで検して、デランの原記載の補完をした後に、亜種記載へ、と順を追って進めばよいのに。

 

いやはや、飛躍しすぎというか、拙速だよなあ~と。

 

私見ですが、デランは、新巻で図示された個体たち(11ページ)のラインナップを見ると、あれですね、これらの大歯型は、いままで「フェアメールと呼ばれていた奴とかツカモト系のカタチ」になって、サパヒメミヤマのような「太丸い系」のヒメミヤマにはならないように予想されます。

sapa,IN vietnam

例えば、この地域のことも考えると、そんなに単純ではないように思います。

 

ミャンマーと、ベトナムのSapaと雲南のPingbianとの距離を考えたとき、結構遠いでしょう?

そのあたりは、なんたってミヤマの種分化の坩堝です。

種レベルでの分類になるのではないかな~と思われます。

まずは、基本中の基本、外観、特に種の特徴が良く出る「大歯型」の個体の比較が、まずありきではないでしょうか。

交尾器を観察することがセオリーだというような態度で、小型個体のみを調べて、交尾器の写真を並べ、判断を下すまえに。。。

 

とまあ、やってもいないのに、批判してもしようがありませんね!

 

ただ、もうひとつ言わずにいられないのは、
著者らの姿勢をみると、ベトナムにおいて記載された種を、中国種の元に格下げしてゆく傾向があるという点です。

『中華鍬甲・弐』15-23ページでは、sp. cheniの記載からの~チベタヌスの整理を試みているわけですが、そこで、「フルキフェルのレクトタイプ指定問題」をベースとして、フルキフェルを、チベタヌスの亜種フルキフェル、というふうに格下げしました。

それはいいとしても、さらに、プセウドシングラリス sp. puseudosingularis Didier et Seguy, 1953、そして、サパを基産地としてベトナムに産するチベタヌスの亜種カツラssp. katsurai までもが、まとめてシノニムにされちゃいました!

つまり、中国の雲南の個体群を起点にして、そこへみな集約させていくんですね。

 

もちろん、古い記録を基礎として集約してゆくのは筋ですし、アリなのだけれども。

「フルキフェルのレクトタイプ指定問題」はおいておいても、雲南の個体、レクトタイプのラベルは「雲南」のみのおおざっぱなデータの個体なのですよね!それを基準として、ベトナムの亜種カツラまでまとめてしまうのは、少々強引に感じるところ。

彼らは、交尾器を観察している、外形比較をたくさんやった、というところを根拠とするのでしょうが、、、

 

交尾器の微細な違いをどこがどうというのは、似ている種ほど違いが出たり、あるいはほとんど違いがなかったり、同種なのに違いがあったりで、外形と同じ、いやそれ以上、観察者の主観をまぬがれないかと思います。

まして、外形の個体変異はかなり幅がある種でもあるわけで。

つまり、このチベタヌスの場合は、誰もが納得するようなものでは無いように思うんですよねえ。。。

 

さらに言えば、神奈川にあるカツラのホロタイプを直接検したわけではないだろうし!

 

 

すみません~批判はあまり良くありませんね。

自分もぶっこんで行きます。

こういうところは、丁寧にやっていく感覚が通じる研究仲間とコラボしていきますので。

慎重すぎてもだめですけど、
こういう、後世に残るものに関しては、拙速すぎるよりはいいかなと思っています!

ではでは。

Author: jinlabo

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