Lucanus ferriei Planet, 1898 アマミミヤマクワガタ
Planet, 1898, Le Naturaliste, 20: 251- 253, fig. [Iles Liou- Kiou]
分布:奄美大島
特記:2013年奄美大島(加計呂麻島,請島,与路島等の付属島を含む)5市町村(奄美市・龍郷町・大和村・瀬戸内町・宇検村)の希少野生動植物の保護に関する条例により、本種の採集が禁止されている。
環境省のレッドデータリストでは、準絶滅危惧(NT)に選定されている。
種名は、数多くの生物の標本をフランスへもたらした宣教師フェリエ J. -B. Ferrié(1856‒1919)にちなむ。
体長:♂23.9–51.0mm, ♀26.5–32.5mm
形態:
♂全体が赤褐色で微毛は少ない。
大顎は湾曲せずに直線的に伸長する。第1内歯は基部に近くに上向きに発現するが、大きくはなく痕跡的。中央より歯先にかけて4本前後の小歯をもち、顎先は比較的大きく二叉する。二叉の下側の歯はヘラ状に発達する。頭楯は大型個体ではやや長く発達し、先端中央が凹む。
頭部の耳状突起は後方へ伸び、先端が鋭く角張り、上方を向く。
♀ミヤマクワガタのメスより小型で、よりずんぐりとしている。前胸背板は中央付近で最も幅広となり、丸みが強い。光沢は鈍くつや消しで、点刻は強い。
生態:
成虫は6月から9月にかけて出現し、8月に個体数が最も多い。奄美大島の標高300m以上の原生林(スダジイやタブノキ等で構成される)に生息している。夜行性で、日没直後より活動を開始する。オスは、スダジイなどの巨木や、林道沿いの電柱など、良く開けた空間の高所において観察されることが多い。メスを探す行動という見方が有力となっている。同じ電柱に短時間のうちに複数のオスが集まる事例も報告されている。灯火にも飛来する。
幼虫についての野外観察の例は殆どないと思われるが、以下の採集記は読み応えがある。
☛ 松下泰平, 1998. 奄美大島冬季材採集記. 月刊むし(328) : 10–21.
種の記載について
プラネットによる原記載文(Planet, 1898b)において、プラネットは、本種の歯型はメアレーミヤマクワガタLucanus mearesii Hope, 1842 の小型個体、そして頭冠はラミニフェルミヤマクワガタLucanus laminifer Waterhouse, 1890を思い起こさせるミヤマクワガタで、
アジアのLucanus属の中でももっともエレガントな種のひとつ
と評している。
その赤褐色の色味や形態から、種の位置づけにおいて当時としては類例のない特異な存在であったようだ。
メスについては、記載当時は未確認であったが、のちのモノグラフにおいて、小型の♂と♀も図示された。
☛ Planet, L., 1899b. Essai monographique sur les Coléoptères des genres Pseudolucane & Lucane. Vol. 2., Deyrolle Ed., Paris. 143 pp, 16 pls.
日本においては、黒澤による1976年のリスト(黒澤、1976)において、本種の和名は「オオシマミヤマクワガタ」とされており、1980年半ばくらいに「アマミミヤマクワガタ」と表記されるようになるまで、オオシマミヤマの名が優勢だった。
☛ 黒澤良彦, 1976. 日本産甲虫目録 1. クワガタムシ科. 甲虫談話会.
(3頁の当該部分引用)
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20250121 :保護条例のリンク&『奄美大島自然保護ガイドブック』PDFリンクを追加。 環境省レッドデータリンクを追加。