「美術の中の動物がもつシンボルやイメージ」について解説した本に、クワガタムシの項があった。
拙訳を、以下に載せておく。
Lucia Impelluso
Nature and Its Symbols
translated by Stephen Sartarelli, The J. Paul Getty Museum, Los Angeles, 2004
(Italian ed. 2003, Mondadori Electa S.p.A, Milan), pp.339-341
Nature And Its Symbols (Guide to Imagery Series)
Lucia Impelluso / J Paul Getty Museum Pubns
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クワガタムシ
Stag Beetle
神話の起源
:羊飼いケラムボスCerambusが、クワガタムシに変身する。
意味
:悪 or 悪魔の象徴
出典
Ovid, Metamorphoses, 7:353-356
Pliny the Elder, Naturalis Historia, II.97
Antoninus Liberalis, Metamorphoses, 22
「クワガタムシのイメージは、しばしばスカラベ(甲虫)と結び付けて考えられた。
その図像は、後期ゴシックの時代の美術に初見できる。
われわれは、神話の中に、ケラムボスCerambus、そしてTerambusという二人の人物が、クワガタムシに変身したという物語を見出すことができる。この二人の話はほぼ同じものといってよい。羊飼いケラムボスCerambusは、ギリシアのテッサリアにあるオスリー山で、羊の群れの番をして暮らしていた。美声に恵まれ、パンの笛の卓越した奏者であった。彼を訪れて音楽を聴くことを好んだニンフたちは、彼に感謝していた。しかしある日、羊飼いは神と口論し、二つの巨大な角を持つ虫に姿を変えられてしまう。その虫とは、生きるために木を齧る、「森を食べるクワガタムシ」であった。
この虫は、子供たちにとって、紐を結び付けて飛ばす格好の遊びの対象となった。
この虫の図像は、まず、14世紀後半から15世紀初頭にかけて、ヨーロッパの宮廷で発達した芸術の流れ「国際ゴシック様式」の、金や銀で彩色された写本中に、見出すことができる。
とはいえ、クワガタムシは、もっぱらそのほとんどが16世紀から17世紀の「北方ヨーロッパ」の絵画に描かれた。とりわけ、静物画、そして画面の下生えに描かれる。こうした描写の中のクワガタムシは、もっぱら悪や悪魔の象徴といったものを意味していると考えられる。
おそらく、クワガタムシは「火」を撒き散らす危険な動物だという北方文化の共通する認識のためであろう。その「赤い」大顎の中に、赤熱した(石炭や薪などの)燃えさしを運んでいると考えられていたのである。」
2007, tra. Jinlabo